つい最近、厚生労働省のエイズ研究班がHIV感染者のウイルス量を調査した結果を公開しました。調査は現在全国9ヶ所の医療機関で抗HIV治療を受けている1,100人の患者さんを対象に行ったもので、体内のHIV RNA量がどのくらいあるかを調べたものです。

この調査結果はHIV感染者に対する差別や偏見をなくす意味でも非常に大事な、ぜひ知っておくべき情報だと思いましたのでここで記事にしたいと思います。私が調べたことを甥っ子の陽介に話しますので、あなたもいっしょに聞いて下さい。

(甥っ子陽介)おじさん、HIV RNA量の検出限界って、何のことですか? (私)陽介、それはねウイルス量の検査で検出できる最低量のことだよ。
陽介 私

(陽介)検出できる最低量?それ以下の量は検出できないってことですか?

(私)その通り。あまりにウイルスの量が少ないと検査できないんだよ。

(陽介)ふ~ん、そうなんですか。

(私)でもなぜそんなことが気になるんだい?

(陽介)昨日ネットのニュースで見たんですけどね、「HIV陽性通院者の7割 検出不能レベル」って書いてあったんですよ。

(私)あ~、その記事なら私も読んだよ。確かに出てたね。

(陽介)おじさん、この記事についてもう少し分かりやすく説明してもらえませんか?

(私)いいよ。私もこの記事は陽介に話してあげようと思ってた。とても大事な情報だと思うよ。

(陽介)どこが大事なんですか?

(私)一言でいえば、

『HIV陽性者であっても、病院で治療を受けている人は体内のウイルス量が検出できないほど少なく、本人の体調が維持できることはむろん、他の人にHIVをうつす危険も極めて小さい』

ってことだよ。

(陽介)そうなんですね!それはとても大事な話ですね!

(私)そうなんだよ。HIVに感染していると言うだけで差別や偏見を持ってる人はこうした正しい情報を知らない人が多いよね。

(陽介)本当ですね。つい先日も高知市内でHIV感染者が風邪の治療で病院に行ったらHIV感染を理由に診察を断られたって、ニュースが出てましたね。

(私)うん出てたよね。未だにこんな病院があるんだって、驚いたよ。医師や病院の中にもHIV感染に対する差別、偏見があるんだね。でも、さっきも言ったようにちゃんと治療を受けているHIV感染者の体内には、検査しても見つからないくらいの量しかウイルスがいないんだよ。だから感染リスクも小さい。

(陽介)そうなんですね。しかも、元々HIVって日常生活の中では感染しませんよね?

(私)その通りだ。HIV感染は粘膜感染や血液感染しかない。だからHIV感染者と同居したり同じ職場で仕事をしても感染することはない。しかも抗HIV治療を受けていれば検査しても見つからないほどウイルス量が少ない訳だからもっと感染リスクは小さい。

(陽介)分かりました。でもおじさん、具体的に検査できない量のウイルスってどのくらいの量なんですか?

(私)そうだね。それを説明しよう。HIVに感染した人の治療にあたっては、CD4とHIVーRNAという2つの指標が使われるんだ。簡単に言うと、CD4は免疫力の指標であり、HIV-RNA量はウイルス量の指標なんだね。⇒補足資料①

(陽介)はい。前に教えてもらいました。

(私)だから検出不能とか、検出限界とか言ってる話はこのHIV RNA量の話なんだよ。HIVというウイルスのRNA核酸を見つける検査だね。

(陽介)はいはい、そうでした。思い出しました。

(私)HIVに感染した直後には、まだ体内にHIVに対する抗体が出来ていないので、HIVはものすごいスピードで増殖するんだ。前にも話したけど、HIV感染1週間から2週間後には100万コピー/mlから500万コピー/mlという、気が遠くなるような量に増えるんだ。

(陽介)1mlって、1リットルの1000分の1ですよね?ほんの一滴ですよね?その中にHIVが100万個から500万個もいるってことですか?

(私)いや、そうじゃないよ。コピーという単位はRNAの実数を計測したものではなく、あくまでも血液中のウイルス濃度を示す値なんだ。ただ100万~500万コピー/mlは相当多い量には間違いない。

(陽介)う~ん・・・恐ろしい、怖い話ですね。

(私)ところがね、そんなHIV RNA量も病院できちんと治療受けると減らすことが出来る。国立大阪医療センターのホームページによると、

『2~8週間でウィルス量が1/10に低下し、24週間以内で400コピー/mL未満、48週以内に40コピー/mL未満になると予想される』

と説明されている。これをグラフ化すると、こんな感じだね。

2~8週間でウィルス量が1/10に低下し、24週間以内で400コピー/mL未満、48週以内に40コピー/mL未満になると予想される

図0.HIV-RNA量の推移

残念ながら現状では完全なる駆除は出来ないけど、この図のように体内のウイルス量をコントロールすることは出来るようになったんだよ。この治療によって免疫不全を改善することが出来るようになった。つまりはエイズを防ぐことが可能になった訳だ。

(陽介)なるほど。でもおじさん、そのHIV RNA量の検出限界って、具体的にはどのくらいなんですか?

(私)うん、厚生労働省が出している「抗HIV治療ガイドライン 2014年3月版」によると、現在の検出限界は20コピー/mlだそうだ。以前は40コピー~50コピー/mlとする資料が多かったから、かなり検査精度も改善されたみたいだね。

(陽介)するとHIVに感染した直後は100万コピー/mlだったウイルス量が、治療を受けると20コピー/mlまで減るってことですか?1,000,000⇒20、ですよね。すごいですね!

(私)そうだね。ただ、全ての患者がそうだと言うことではないよ。先の調査結果では、こんなふうになっている。

ウイルス量
図1.HIV感染者のウイルス量

HIV RNA量が検出限界以下まで減っている人は調査した患者1,100人の70%だった。でも25.3%の患者は検出されたんだよ。

(陽介)ふ~ん、検出限界まで減っていない人がいるのはなぜですか?

(私)主な理由は2つだね。1つは、まだ免疫力の低下が危険レベルまで下がっていないので投薬を開始していない場合だね。これはHIV RNA量と並んでもう1つの指標であるCD4の値が500以上の場合だね。⇒補足資料②

この場合は薬の投与をまだ開始しないのでHIV RNA量が検出される。

そして2つ目の理由は薬の効果が十分ではなく、ウイルス量が検出限界まで減っていない場合だ。前にも話した通り、一口にHIVと言っても、非常に変異しやすいウイルスであり、簡単に薬に対して耐性が出来てしまう。だからどの薬を使えばいいのか、最適な組み合わせを見つけるのは難しいんだよ。

(陽介)でも、そのままだとHIVが増えて危険ですよね?

(私)うん、だから検出限界まで減らない場合には十分な注意が必要なんだよね。ガイドラインによると、次のような対処が目安になっているよ。

HIV RNA量検出限界
図2.HIV RNA量による分類

1.血液中のHIV RNA量が20コピー/ml未満の場合
検出限界まで下がっているのでそのまま経過観察となる。

2.20コピー/ml~499コピー/mlの場合
この場合も検出限界まで下がった場合と同じく経過観察・服薬指導となる。

3.500コピー/ml~1000コピー/mlの場合
現在使っている薬の耐性検査を行うことを考慮し、耐性があれば治療変更を行う。

4.1000コピー/mlを超える場合
耐性検査を推奨し、耐性が認められれば治療変更を行い薬を変える。

こんな感じだね。

(陽介)う~ん、何だか3番と4番の差がよく分かりませんね。耐性検査を考慮する、というのと推奨する、ってどう違うんですか?

(私)そうだね。「抗HIV治療ガイドライン 2014年3月版」によれば、3番目は要注意レベルであり、4番目は現在使用している薬の選択が失敗している可能性が高いレベルだそうだ。どちらにしても薬の耐性がないか、確認が必要だと書かれてる。

(陽介)そうなんですか。

(私)ただ、最近は更に判断基準が厳しい方向にあって、血液中のHIV RNA量が200コピー/ml以下を維持できないときはウイルス学的失敗と定義し、更に500コピー/mlを超えれば耐性検査を推奨するそうだ。

(陽介)ふ~ん、そうなんですか。耐性検査の推奨レベルが1000以上から500以上に引き下げられた訳ですね。

(私)まぁ、そういう取り組みもあってだと思うけど、70%の感染者は検出限界以下になっているんだね。

(陽介)そう言うことですね。こうしてHIVの量が検出レベル以下に保たれていることで、患者さん本人もエイズ発症のリスクを回避できるし、また二次感染の可能性も減る訳ですね。

(私)その通り!私が最初に言ったようにそこが最も大事だね。だからこそ、早期のHIV検査によって万一HIVに感染していた場合に備えることが大事なんだよ。早期に分かれば治療の選択肢も多いし、万全を期すことも出来るからね。

(陽介)そうですね。でも、おじさん、今日の話でひとつ不安を覚えました。

(私)うん?いったいどんな不安だい?

(陽介)さっきのおじさんのお話しの中で、HIV感染直後には血液中のHIV RNA量は、100万コピー/mlを超えることもあるって言いましたよね?

(私)ああ言ったよ。100万どころか、500万コピー/mlの例もある。

(陽介)だとすると、この状態ではすごく二次感染の可能性が高いってことですよね?

(私)その通りだね。HIV RNA量が検出限界まで下がれば二次感染の可能性も低くなる、という事実の裏返しとして、HIV RNA量が多い状況では二次感染のリスクは高いと言える。

(陽介)しかも感染直後って、HIV抗体検査では感染が分からないし、自覚症状も出ないし、感染した本人も知らないままどんどん二次感染が広まる可能性があるってことですね。

(私)まさにその通りだね。私が以前読んだ『エイズの起源』(みすず書房)という本にもその話が出てくる。⇒補足資料③

(陽介)やはりHIV感染は日頃から予防にも注意することが大事ってことですね。

(私)そうだね。では、最後に今日の話をまとめておこう。

(陽介)お願いします。

(私)まとめとしては、こんな感じかな。

●HIV RNA量は、体内のウイルス量を示す指標であり、抗HIV治療の指標として用いられている。

●現在、HIV RNA量の検出限界は20コピー/mlであり、治療を受けている人全体の70%は検出限界以下のレベルにある。

●しかし、HIV RNA量が検出できるレベルにある場合には、使用している薬に対して耐性が出来ている可能性があり、耐性検査を行った上で必要に応じて治療変更を行う。

●HIV RNA量が検出限界以下のレベルであれば、患者本人のエイズ発症を伏せぐことが可能であり、また二次感染のリスクも減る。

(陽介)なるほどです。要するに、現在の抗HIV医療において、HIV感染は早期発見さえできれば、体内のウイルス量をコントロールしてエイズを防ぐことが出来る、と言うことですね?

(私)そうだね。ではまとめが終わったところで今回の話はこれでお終いだよ。

(陽介)おじさん、ありがとうございました。

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補足資料

①HIV RNA量とは?

②CD4ってなに?

③「エイズの起源」(姉妹サイト:HIV検査完全ガイド)