HIVに感染していることで就職活動に支障が出ることがあるでしょうか?また、会社側にHIV感染を事前申告する必要があるでしょうか?

私の調べたことを甥っ子の陽介に説明します。ぜひあなたもいっしょに聞いてください。

(甥っ子陽介)おじさん、HIVに感染していることで就職活動に影響がありますか? (私)陽介、HIV感染者の就職について、基本的には影響はないよ。
陽介 私

(陽介)HIVに感染していることがマイナスにはならないってことですか?

(私)そう、基本的にはね。だけど現実問題としてはそう簡単には言えない。

(陽介)どういうことですか?

(私)まず、企業の採用試験を受けるとき、自分がHIVに感染していることを申告する義務はない。企業側も受験者に対してHIV検査を実施してはいけないことになっている。

(陽介)え!そうなんですか?

(私)そう。平成7年2月に厚生労働省が各自治体に対して、

『職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについて』

という通達をだし、この中でハッキリ書かれている。

(陽介)そうなんですね。

(私)今までも陽介に話してきたように、HIVは日常生活で感染することはない。また仕事を遂行する上で大きな障害になることもない。だからHIVに感染していることだけを理由に差別をしてはいけないんだ。

(陽介)そうですか。だったらHIV感染者でも就職活動には何も影響ないですね。

(私)うーん、そこが難しいところだね。実際問題としてHIVに感染しているということは定期的な通院、治療が必要になる。それを感染者自身が仕事とどう両立させるか、そこが大きな問題だと思う。

(陽介)でも、有給休暇とかで休めばいいんじゃないですか?

(私)確かにね。でも、仕事が忙しい最中だったり、出張予定と重なったり、大事なお客様の来社予定と重なったり、休みにくい状況もあるよね。

(陽介)なるほど・・・。しかも定期的に休むとなると、けっこう気を使いますね。

(私)そうなんだよ。自由に休める仕事だったらいいけどね。だから会社側に自分がHIV感染者であることを告げずに就職する場合にはそうした苦労があるね。

(陽介)じゃぁ会社側に申告した方がいいってことですか?

(私)うーん、それもまた一概には言えないね。あくまでも個人のプライバシーの問題があるね。HIVに感染しているという極めて重大な個人情報が社内でどう扱われるか、心配する人もいるよね。

(陽介)確かにそうですね。

(私)それに、残念だけど日本の社会ではHIV感染者に対する偏見が全くないとは言えないと思う。前にも『HIV感染者の職場の課題』で話したよね。

(陽介)そうでしたね。

(私)ただ、そうしたHIV感染者に対する偏見を少しでもなくして、働きやすい環境を作っていこうとする働きかけもあるんだよ、

(陽介)そうなんですか。例えばどんなことですか?

(私)HIVに感染していることを事前に申告して、通院、治療が必要であることを分かってもらった上で採用してもえるよう、国が支援しているんだ。

(陽介)初めから会社側が理解してくれてると助かりますね。気を遣わなくてもいいですね。だけどプライバシーの問題はありますよね。

(私)そうだ。だからHIV感染者を受け入れる企業側としては社内でしっかり受け入れ体制を用意しておくことが必要だね。

(陽介)その支援制度って、具体的にはどんなものですか?

(私)うん、実は全国のハローワークが窓口になっている。そこで一般企業や自治体の「障害者雇用枠」を利用した求人情報を提供しているんだよ。

(陽介)「障害者雇用枠」って何ですか?

(私)HIV感染者の場合、免疫機能障害者として障害認定を受けることが出来る。

(陽介)はい、それって『いくらかかる?抗HIV医療費は高い?』というお話のときに教えてもらいましたね。

(私)そうだったね。一方、企業側も「障害者の雇用の促進等に関する法律」というのがあって、従業員が50人以上の企業では身体障害者を2%以上の比率で雇用する義務がある。

(陽介)へぇ、法律で決まっているんですね。

(私)そうだよ。これに違反すると罰金があるんだ。そしてその罰金を財源にして障害者を採用する企業を費用面で支援しているわけだ。

(陽介)なるほどです。HIV感染者を含めた身体障害者を企業が採用しやすい支援をしている訳ですね。

(私)そうなんだ。しかもHIV感染者の場合、定期的な通院治療は必要だけど仕事を遂行するうえで支障が出るケースは少ないよね。医療現場や警察官だってやれてる訳だし。

(陽介)なるほど。採用する企業側にもメリットがあるわけですね。

(私)そうなんだ。以前は障害者枠での採用は賃金が安かったり、仕事内容が単純なものが多かった。でも、最近は専門技術、専門知識を要する仕事の求人も増えてる。

(陽介)例えばどんな仕事ですか?

(私)システムエンジニアやデザイナー、コンサルタントなんかの求人もあるんだよ。

(陽介)そうなんですか。それじゃ障害者枠での求人・就職が件数としても増えてる訳ですね。

(私)そうだよ。下のグラフを見て欲しい。厚生労働省が公表しているデータだよ。

免疫障害者の就職

2008年から2012年までの過去5年間で、ハローワークに免疫障害者として登録した人の数と、障害者枠で就職できた人の数だ。

2012年で言えば、免疫障害者としての登録が989件、障害者枠で就職した人が249人だ。まだまだ実績としては件数が少ないかも知れないけど年々増えているよね。

(陽介)確かにそうですね。登録者が増えているってことは、最初から会社にHIV感染を理解してもらった上で就職し、周囲に気を使わずに仕事に打ち込みたい人が増えてるってことでしょうか?

(私)うん、そうだと思うよ。最初にも言ったけど就職するのにHIV感染を申告する義務はない。でも、積極的に自分が感染していることを申告して周囲の理解を得たいと思う人が増えているんだね。

(陽介)これからもっと増えますか?

(私)おじさんは増えると思うよ。HIV感染者の増加が止まらない一方で抗HIV医療はどんどん進歩している。HIVに感染しても普通に仕事をしたい人、しなくてはならない人が増えると思う。

(陽介)それにはHIV感染者に対する偏見や差別がもっとなくなる必要がありますね。

(私)そうだね。国や自治体、あるいはNPO団体がHIV感染者受け入れのための企業向けセミナーを開いているね。HIVは日常生活では感染しないことや受け入れのためにどんな準備が必要か、そうしたセミナーを通してHIVやエイズに対する正しい知識、情報を伝えるんだね。それが偏見や差別を失くす第一歩だと思う。

(陽介)本当にそうですね。このHIV感染者の就職や就業の問題は決して他人事じゃないですね。会社だけの問題でもない。僕ら自身も考えなくちゃいけない問題ですね。

(私)まさにその通りだと思う。私たち一人一人がもっとHIVやエイズに対する正しい知識を持つことが要求される時代になると思うよ。それは自分自身のためでもあるしね。

(陽介)はい。僕もおじさんに教えてもらったことを役立てます。

(私)ぜひともそうして欲しいね。

(陽介)分かりました。

(私)では、今回の話はこれで終わりにしよう。

(陽介)おじさん、ありがとうございました。

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